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後継者の育成が不安

INDEX目次

多くの経営者がいずれ考えなければならない、後継者問題。事業を承継させる人材の選択・育成についても、経営者の課題のひとつとなります。ここでは、その育成に対して不安を感じている経営者に向けて、後継者育成のポイントなどをまとめてみました。

企業における後継者育成とは?

後継者育成とはその言葉の通り、企業における将来の経営者候補を育成すること。人事の専門用語では、サクセッションプランと呼ばれます。

経営者に定年はありませんが、年齢・健康問題・ライフプランなど、何らかの理由でいつかは引退するものです。とくに上場企業の場合、会社は経営者だけのものではありません。株主および社会の公器としての機能も求められます。

東京証券取引所でも、上場企業が行うべきガバナンスのガイドライン「コーポレートガバナンスコード」の中で後継者育成の重要性に触れているため、経営者は常に後継者について考え、行動を取る必要があるのです。

後継者育成の課題

企業の将来を担う後継者の選定と育成には多くの課題がありますが、これらは企業が成長し続けるために乗り越えなければならない重要なハードルです。

適切な後継者の選定

適切な後継者を見つけるということは、ただ単に次のトップを決めること以上の意味を持ち、組織の未来を任せられる人物を見極めるという深い洞察が求められます。後継者の選定に際しては、候補者の技術や知識だけでなく、その人の持つリーダーシップ、未来に対するビジョン、そして組織の価値観に対する共感といった資質を重視することが大切です。

適切な後継候補者が内部にいない場合、外部からの採用が必要となることもありますが、これは組織文化への適合性や、既存社員との相互作用という新たな課題を生じさせます。 後継者選定の過程では、候補者の選定からその人材の育成、そしてスムーズな権限委譲に至るまで、総合的かつ戦略的なアプローチが求めらます。

後継者育成プランがない

後継者の育成プランがない状況では、企業は未来のリーダーに求められるスキルや経験を提供する明確な道筋を持たず、才能ある人材が成長する機会を見失いがちになります。後継者に明確な育成の指針がなければ、彼らの潜在能力を引き出すことは難しく、組織のビジョンに貢献するリーダーを育てる機会も逃れてしまいます。また、プランの不在は、従業員のモチベーションや組織への帰属意識にも影響を及ぼすことがあります。

企業はこの課題に対処するため、包括的で明確な後継者育成プランを策定し、それを実行に移すことが重要です。

組織文化との不一致

企業が後継者を育成する過程で直面する課題の一つに、組織文化との不一致が挙げられます。この問題は、新たなリーダーや後継者がその企業の長年にわたって築かれてきた価値観、慣習、そして働き方と合致しない場合に発生します。組織文化は企業のDNAのようなものであり、従業員の行動様式や意思決定の基準を形成します。そのため、後継者がこの文化と異なる価値観を持っていると、従業員との間で摩擦が生じ、組織内でのコミュニケーションの障害やチームワークの崩壊を招きかねません。また、組織文化との不一致は、後継者が新しい戦略やイノベーションを推進する際にも障害となり、変革を困難にします。

この課題に対処するために、後継者の選定プロセスで組織文化への適合性を重視し、組織文化自体が時代や市場の変化に柔軟に対応できるよう進化させることが重要です。 結後継者育成は単に技術や知識の伝達に留まらず、組織文化を理解し、それを継承しつつも必要に応じて革新できる能力を身につけることが求められるのです。

経験とスキルの不足

会社経営者がトップを退く際に後継者を育成する過程では多くの課題を伴いますが、中でも「経験とスキルの不足」は顕著な問題として挙げられます。これは、後継者が会社の日々の運営や将来的な戦略立案に必要な、実践的な経験や特定のスキルを十分に有していない可能性があることを意味します。特に、経営の複雑さと多様性を理解し、それに対応する能力は短期間で身につけることが難しく、経営者から後継者へのスムーズな移行を妨げる要因となります。 後継者が経営の舵を取る準備ができているかどうかを判断する際には、これらのスキルと経験のギャップを埋めるための具体的な計画と対策が不可欠となります。

後継者育成の重要ポイント

後継者育成における重要なポイントはいくつかあります。これらのポイントを押さえることで、将来のリーダーは経営者としての資質を磨くことができるでしょう。

早期に、かつ長い目で取り組む

まず、「早期に取り組む」ことの重要性は、未来の経営者が予期せぬ時期に必要とされる可能性があるためです。経営者の交代がいつ起こるか予測できないため、後継者教育は早い段階から始め、常に準備を整えておく必要があります。

次に、後継者が必要なスキルや資質を身につけるには時間がかかるため「長期的な視点で取り組む」ことも重要です。長期計画のもとで段階的に教育を進め、後継者自身が目指すべき将来像を明確にします。 継続的な学習はもちろん、精神的・身体的なサポートの重要性も忘れてはなりません。後継者が途中で離職してしまうと、投資した時間やリソースが無駄になってしまうため、彼らのモチベーションやウェルビーイングにも注意を払う必要があります。

厳しい状況も経験させる

後継者育成において、将来経営者が直面するであろう厳しい状況に身を置かせることは非常に重要です。これを「タフアサインメント」と呼び、経営の最前線で遭遇するような難易度の高い課題に取り組ませることで、経営者として必要なスキルを養う狙いがあります。 例えば、新規事業の立ち上げ、海外展開の推進、さらには事業再構築やリストラクチャリングなど、厳しい判断が求められる状況を経験することで、決断力やリーダーシップ、さらには危機管理能力を磨くことができます。

また、後継者に意図的に高い難易度の挑戦を設定することで、失敗を経験させることの価値も教えます。失敗から学ぶことは、問題解決能力やストレスへの耐性を高める上で不可欠です。これにより、将来の経営者は不確実性の高いビジネス環境で迅速かつ効果的に行動できるようになるでしょう。

後継者を支える人材も育成する

後継者を選定することは極めて重要なポイントですが、その後継者を支える人材作りも同等に重要です。
後継者個人が全ての技能や知見を兼ね備えているわけではないため、さまざまな専門知識を持つ支援者の存在は、多角的な観点からの意思決定を可能にし、経営効率を高めてくれるでしょう。

このような支援者は、後継者が経営上の困難に直面したとき、心理的なサポートや実践的な助言を行うことができる貴重な資源となります。

後継者の育成を行う方法

後継者育成をスムーズに行うためには、入念な準備と早期からの実施が重要となります。その方法は、社内で行う方法と、社外で行う方法の2通りがあります。

主要部門でのローテーションを行う

ローテーションとは、後継者候補を営業・財務・労務といった主要部門を中心に一定期間配置し、各部門での経験を積んでもらうことです。事業に関する専門スキル・知識を習得してもらい、現場感覚を身につけると共に、社内の業務プロセスについても理解してもらえるよう教育を施します。

経営者の「カバン持ち」をしてもらう

経営者の仕事を覚えるには、経営者が直接指導するのが一番です。企業では昔から後継者候補を経営者のそばで一定期間働かせる「カバン持ち」という取り組みを行っていますが、これも後継者を育成する方法としてかなり有効と言えるでしょう。実際に経営に参画させて意思決定・対外的な交渉をまかせることにより、経営者として必要なリーダーシップを育てることができます。

他社で勤務経験を積んでもらう

後継者候補を他社へ送り出し、自社とは異なる勤務経験を積んでもらう方法です。自社でしか勤務経験がない場合、どうしても視野が狭くなりがちなので、他社でさまざまな経験をすることは、経営者候補として大切な経験と言えるでしょう。また、子会社に出向させたり、外部セミナー・ビジネススクールを活用するといった方法もあります。

後継者育成をしなかった場合、企業はどうなる?

企業を存続させるために後継者の育成は欠かせませんが、これを行わなかった場合はどうなるのでしょうか。

取引先との関係が崩れる可能性がある

企業の中には、経営者と取引先の信頼関係でビジネスが成立しているケースがあります。こういったケースで後継者が育たないまま経営者の座を譲ってしまうと、取引先との関係が崩れて経営が悪化。最悪の場合、そのまま廃業を余儀なくされることもあるのです。また、経営者の存在感が強い企業の場合、退任と同時に企業イメージがダウンし、売上が減少する恐れもあります。

退職者が増加する可能性がある

後継者の育成を行わずに経営者が退任した場合、従業員のモチベーションが低下する恐れがあります。「社長がこの人だから働いていた」という従業員も少なからずいるので、そういった従業員は「社長がいなくなるならこの会社にいる意味がない」と考え、退職してしまう恐れがあるのです。とくに経営者と従業員の関係性が強い中小企業では、後継者の育成と従業員への認識を前もって行っておくべきでしょう。

解散のリスクが高まる

経営者のほかに事業を継続させられる人材がいない場合、廃業や解散という結果になる恐れがあります。この状況に陥ってしまうと、これまで企業が手がけてきた製品・サービスはもちろん、培ってきた技術・ノウハウも消滅してしまう可能性があるのです。また、経営者個人が企業の連帯保証人になっている場合、個人資産の差し押さえが行われることもあります。

後継者がいない場合の企業の選択肢

経営者の後継者がいない中小企業が直面する選択肢は多岐にわたりますが、それぞれには利点と欠点が存在します。

親族への承継

親族への承継は、経営理念や企業文化を継承しやすいというメリットがあります。また、信頼関係が既に構築されていることから、スムーズな移行が期待できます。しかし、後継者が適切な経営スキルや意欲を持っているとは限らず、経営の質が低下するリスクも伴います。

社員への承継

社員への承継は、従業員のモチベーション向上や組織の安定性が見込めるという点で魅力的です。経営に対する理解が深い社員が後継者となることで、スムーズな事業継続が可能となります。ただし、適切なリーダーの選出が難しいことや、経営方針の転換による内部の対立が起こる可能性があります。

M&A

M&Aは、資金力のある企業や業界内でのシナジーを期待できる他社による買収を意味します。これにより、経営資源を強化し、事業拡大や新たな市場への進出が容易になる可能性があります。しかし、企業文化の相違や従業員の抵抗感が大きな障壁となることが多く、統合後の経営が困難になるケースもあります。

廃業

廃業は、経営の責任から解放されるという点で最も明確な解決策かもしれませんが、従業員の失業や地域経済への悪影響など、大きな社会的コストを伴います。また、長年築いた顧客との関係が失われることになります。

株式公開(IPO)

株式公開(IPO)は、資金調達や企業価値の向上につながる一方で、準備には膨大な時間とコストがかかります。また、公開企業としての厳格な規制や開示義務により、経営の自由度が低下する可能性があります。さらに、市場の変動に左右されやすくなるというリスクも伴います。

後継者不在の場合にはM&Aの活用が有効策

親族や従業員の中に後継者にふさわしい人材がいない場合、M&Aによる第三者への事業承継という選択肢も視野に入れる必要があります。

M&Aはただ単に企業を売却するのではなく、企業を存続させられる手段のひとつ。近年では後継者問題の解決策としてだけでなく、資金調達や事業の提携といった目的でも幅広くM&Aは活用されています。

M&Aにはいくつかの取引形態がありますが、事業承継として用いられるのは「事業譲渡」「株式譲渡」のいずれか。事業譲渡とは、企業の全部または一部を他社に売却する方法で、株式譲渡とは経営者の持つ株式を譲渡することで経営権を譲るという手法です。

それぞれのスキームには特徴があるため、事業内容や対象会社に合わせて適切な方法を選ぶようにしましょう。うまくM&Aを活用して後継者問題を解決できれば、事業の継続はもちろん、経営者自身のリタイア後の資金づくりにも役立ちます。