企業の成長に伴ってIPOを目指す場合、まず企業の財務を安定化する必要があります。なぜ財務の安定化がIPOに不可欠なのか、そのために経営者は何を行ったらいいのか、IPOの概要やメリット・デメリットなどと共に見ていきましょう。
IPOとはInitial Public Offeringの略で、日本語では「新規上場」「新規株式公開」という意味となります。これまで未上場だった企業が東京証券取引所(東証)といった証券取引所に上場し、一般の方が株式の売買を行える状態にすることを指します。
不特定多数の投資家から資金調達を行えるようになるIPOですが、どの企業でもできるというわけではありません。上場するためには一定の基準を満たし、審査に通過する必要があります。
国内における上場企業の数は、2022年6月27日の時点で3,828社(※)となっています。総務省・経済産業省の「令和3年経済センサス」によると、国内の企業数は3,674,058社。その割合は、およそ0.1%です。しかし、その0.1%を目指すだけのメリットがIPOにはあるのです。その内容を見ていきましょう。
※参照元:日本取引所グループ(pdf)(https://www.jpx.co.jp/listing/co/index.html)
※参照元:総務省(pdf)(https://www.stat.go.jp/data/e-census/2021/kekka/pdf/s_summary.pdf)
未上場企業の資金調達先は、銀行などの金融機関、親族などの縁故者、ベンチャーキャピタルといった限られた手段のみになります。しかしIPOを行って上場した企業であれば、一般の投資家にも広く株を買ってもらえるようになります。つまり、より多くの資金調達が可能になるのです。
とくに投資家は創業から20年以内のIPOを好み、さらに10年以内であれば人気銘柄となる可能性も高め。そのため、若手の起業家やベンチャー企業などは、資金調達力を大幅に飛躍させるためにIPOを積極的に目指す傾向にあるのです。
国内で上場している企業は約0.1%と非常に少なく、その中に入るということは企業としてのステータスにもつながります。上場をすれば株式市況欄に企業名が載りますし、場合によってはニュースに取り上げられることもあり、企業の知名度もグンと向上するでしょう。
企業の知名度が上がるということは社会的信頼度にもつながり、金融機関などからの借り入れも有利になることがあります。また、企業イメージやブランドの向上により、優秀な人材を確保できるといったメリットも挙げられます。
創業者利潤とは、株式譲渡の際に創業者が得る利益のこと。株式上場すると創業者が持っている株式を市場で売却できるようになり、さまざまな目的で活用することができます。たとえば、「負債の解消」「新規事業のための資金」「セミリタイア」「廃業の回避」などです。
上場すれば創業者が保有する株式の価値は飛躍的に向上するため、創業者利潤を確保するといった意味でもIPOは有効な手段となります。また、利益を事業にうまく活用できれば、事業の拡大とともに株価もさらに上昇。自社株の資産価値の向上が期待できるようになるでしょう。
IPOにはメリットだけでなく、デメリットもあります。まず、IPOの準備には非常に多くの手間と時間がかかり、その中には必要資料の提出・数百にのぼる質問事項への回答・ヒアリングといった、数多の業務が含まれます。これらの作業を、通常業務と同時に行わなければならないのです。また、証券会社の審査料や監査法人への報酬など、コストの増大も懸念されます。
こうした上場に向けての業務を問題なく、スムーズに行うためには、専門知識に長けたコンサルタントの存在が不可欠であると言えるでしょう。
上場して一般投資家から資金調達を行うためには、安心して投資できる企業であることが前提。そのために必要なのが、財務の安定化です。
方法として、M&Aを活用するケースも見られます。これは、株式上場前にM&Aで事業の拡大・多角化を目指したり、売上・利益の向上による企業価値の増加などを目的とするもの。M&Aを成功させられれば市場からの成長期待も高まりますし、IPO最大のメリットとなる資金調達でもポジティブな効果が期待できるようになるでしょう。また、より適切なタイミングでM&Aを行って実績を残すことができれば、成長戦略としてM&Aを活用できる企業であるということを投資家にアピールすることもできます。
ただし、IPO前のM&Aにはデメリットもあります。そのひとつは、M&Aによって事業内容や規模が大きく変化する可能性があるということ。事業規模が大きくなると求められる管理体制のレベルも上昇するため、それに向けた準備の工数が増えることになります。また、のれん償却による利益へのマイナス影響も無視できないところです。とくに慎重になるべきIPO前のM&Aを成功させるには、専門家の力が必要になると考えたほうが良いでしょう。
IPOを目指すためにM&Aを活用して事業の売却を考えるのであれば、ぜひ知っておいてほしい情報が「財務の知識」。
スムーズな取引を行うためにも、予め自社の財務状況を改善しておく必要があります。
IPO前にM&Aを活用する企業の多くはコングロマリット化しているケースも多く、想定したシナジー効果が得られないと判断したときはM&Aが非常に有効なのかもしれません。
自社の力で財務状況を安定化することはもちろん重要ですが、M&Aは企業や社員の成長曲線を描き続けるためのスタンダードとも考えられるのではないでしょうか。
ABNアドバイザーズ株式会社/澤田氏
IPOとM&Aのタイミングの見極めが重要
IPOを目標とする企業は多くありますが、IPOはあくまでも企業が成長するための手段のひとつ。もし、M&AがIPOよりも企業成長にプラスのインパクトを与えるようであれば、IPOを差し置いてでもM&Aを進めるべきでしょう。
M&Aで結果を出すことができ、事業の拡大や財務の安定化を実現できれば、その先におのずとIPO実現への道も開かれると考えられます。もし、どちらを優先したら良いか判断できない…といった場合は、専門のコンサルタントなどからアドバイスを受けることをおすすめします。