M&Aの決断は、譲渡(売り手)企業の経営者にとって大きな選択のひとつ。一度譲渡してしまったらやり直しはできないため、慎重に物事を進める必要があります。
ここでは、銀行系M&A仲介会社のABNアドバイザーズ澤田氏に譲渡オーナーにおけるM&Aの検討および推進の流れを伺いました。詳しく解説していますので、しっかり目を通しておきましょう。
M&Aで企業もしくは事業を売却する場合、以下のような手続きが必要となります。
まず、M&Aを検討する目的を明確化することが重要なポイントとして挙げられます。M&Aを選択された譲渡オーナーの目的は多種多様であり、何を実現したいか、またはその優先度を考えておく必要があります。
上記のようにM&Aで実現できることはいくつかありますが、M&Aではない代替策もあります。
例えば、事業承継については他社への譲渡だけでなく、親族や従業員に引き継ぐ、外部から経営者を招聘するといった選択肢も考えられます。誰に継いでもらうのが譲渡オーナーや自社にとって最適なのか、しっかり検討しておきましょう。
またここで重要になるのは、誰が相手になるのか?を具体的にイメージして検討すること。M&Aは誰と手を組むのかが重要である、と言われるように、具体的な資本提携候補企業をもって、他の選択肢と比較検討する必要があります。
具体的な提携候補企業が無い中で、M&Aをすべきか、親族または従業員に継がせるかで悩み続ける経営者は少なくありません。事業を承継するということは単純ではなく、複合的な問題や課題を解決しなければならないため、漠然とした相手像や主観的なイメージで検討しても答えは出ないことが多いです。
M&Aによる資本提携候補企業については、取引先や知り合いの企業だけでなく、様々な可能性を追求すべく、専門家にどうような候補企業が想定されるのか聞いてみるのも良いと思います。
M&Aを選択肢の一つとして検討しようと判断された場合、検討チームを発足する必要があります。誰?の具体的な情報を収集すべく、M&A仲介会社に依頼したり、M&Aにおいては税務・法務知識が必要であるため、顧問や外部の専門家の協力を得て検討していく必要があります。
情報管理の観点から、M&A検討チームは不要に多く集めることは避けるべきでして、自社や自分自身のことを深く理解してくれ、かつ自分自身の手と足となって動いてくれるメンバーにお願いすることが成功への第一歩と言えます。
相手はM&Aをするつもりが無いのに、その相手とM&Aをすべきか検討しても無駄な時間を費やすだけになります。自社とM&Aをするつもりがある候補企業からの具体的な経済的な条件を基に、どの相手とM&Aを推進すべきか検討する必要があります。
具体的な資本提携候補企業の情報を収集するためには、マッチングが必須です。自社のビジネスや組織、業績・財務情報、また譲渡オーナーがどのような想いで経営をしてきたかを正確に、また魅力的に記した資料を参考にし、候補企業にM&Aをするべきか、また譲渡対価はいくらになるのかを検討してもらいます。
これらの資料は企業秘密を多く含みますので、まず自社が特定されないノンネーム情報(業種、地域、会社規模程度の情報)を基に、候補企業にM&Aを検討するに値するのかの確認を取り、守秘義務契約を締結した上で上述の詳細資料を開示することをお勧めします。
候補企業がM&Aに前向きであり、尚且つ両者の経済的な希望条件がある程度一致した場合、双方の経営者などのトップ同士の面談が行われます。この場では具体的な条件交渉というより、書面で分かりにくい部分や提携後の協業体制についてを直接ヒアリングするなど、相互理解・信頼関係の構築がメインとなります。
トップ面談が無事に終了し、複数ある候補企業の中から最適な相手を選定した後は、その企業と詳細な条件交渉へ入ります。ここではM&Aによる買収価格・役員・従業員の処遇・M&Aスケジュールといった条件を話し合い、内容を固め基本合意書という形で書面に明記していきます。
譲受企業によるデューデリジェンス(相手企業の情報を詳細に調査すること)の手続きが終わったら、最終契約に向けた交渉へ向かいます。
最終交渉では、デューデリジェンスで新たに発覚してしまった問題の解決方法やM&Aの実行日、代金の支払い方法、M&A実行前後の両者の義務・責任などが基本合意した内容にあらたに加わり、最終契約書を作成します。最終契約を締結すれば、契約書に沿ってM&Aを実行します。
ABNアドバイザーズ株式会社/澤田氏
スムーズな成約には専門家の力が必要
M&Aの手続きは、一般的に3ヶ月~1年ほどの時間が必要となります。万が一、手続きの流れの中で問題が発生した場合はさらに期間が延びる恐れがありますし、それに伴いコストや労力も増えてしまいます。
成約までに長い時間を要することは買い手と売り手の双方にとって好ましくない状況なので、M&Aに詳しい仲介会社を利用して、リスク軽減に努めたほうが良いでしょう。とくに、初めてM&Aに臨むという企業は、スムーズに手続きを進めるためにも専門家の力を借りるようにしてください。