会社経営にはキャッシュが必要であり、資金が底を尽きると会社は存続できません。企業・事業を運営するにあたっては売上が立ち、それにかかる原価や諸経費などの支払を行いますが、支払が先行することが多いです。つまり儲かっていたとしても、支払から入金までの間を繋ぐ資金が無ければ事業を続けることはできません。その資金のやりくりを「資金繰り」といいます。ここでは資金繰りが苦しくなる原因やとるべき対策などを紹介していきます。
会社の利益はキャッシュになるまで時間がかかることがあります。これはコンビニなどの小売店で考えると分かりやすいですが、モノを仕入れて売るまでのプロセスを考えると、「キャッシュを払って仕入れる→売れるとキャッシュに置き換わる」という順番ですので先に支出が発生します。ただでさえ支払先行となるのが一般的なのに、、想定外のコストがかかってしまったり、商品やサービスに欠陥があることが発覚し値引きせざるを得なくなってしまったりすると、見込んでいた収益が得られないどころか損失をだしてしまう可能性もあります。
資金管理ができているかどうかは与信判断にも大きく影響することがあり、ずさんな管理をしていては融資が受けられなくなることもあるでしょう。また、帳簿上と実際の現預金残高に相違があってもよくありません。自社にどれくらいの資金余力があるのかわかっていなければ、資金繰りは見られないからです。誰がどの部分に責任をもって管理するのか、責任者や担当者などを設定して資金繰りの管理を運用するのが望ましいでしょう。
会社は赤字でも存続できますが、資金ショートすると継続できなくなります。損益計算書ばかり見るのではなく、貸借対照表にも目を向けながらこの2つを繋ぐキャッシュフローを意識しなければいけません。期間損益を見ていて「利益が出ているから」と湯水のごとくキャッシュを使いすぎてしまい、黒字倒産なんていう事態も招きかねません。売上債権の回収や仕入債務の決済、その他設備・経費支払など、どのタイミングでどれだけの資金が必要で、不足は予想されないかしっかりと把握するようにしましょう。
対策をとるためにはまず原因を把握しなければいけませんが、損益計算書だけを見ていても「なぜ資金繰りが苦しいのか」は分かりません。反対に貸借対照表だけを見ていても分かりません。損益計算書は「一定の期間に儲かったかどうか」を示すものですので、売上入金があったかどうかは関係ありませんし、貸借対照表は「一定時点の財産・負債状況」を示すものなのでどのタイミングでどれだけの資金が必要なのかどうかは分からないからです。この2つの変動を分析しキャッシュフロー計算書を作成することで、資金繰りの変動要因を分析することが可能になります。
資金を減らさないためには「収入を増やす」か「支出を減らす」のどちらかしかありませんが、自社だけで取り組める努力としては後者の「支出を減らす」です。資金繰りに苦しんでいる会社の多くでは、昔業績が好調だったころの名残で経費を使っていることが多いです。また、損益に表れない保険積立など、投資資産として損益計算書には表れず貸借対照表上に計上されてしまう経費もあります。まずはそれらの支出が本当に必要なものかを検討し、無駄なコストを抑える努力から始めるべきでしょう。
費用には「変動費」と「固定費」があり、変動費は売上の増減に応じて増減するものです。つまり売上が少ない(=収入が少ない)と変動費もそれに応じて下がりますから、利益金額は減っても利益率は大きく変わらないでしょう。一方で固定費は売上が増えても減ってもある程度一定の支払が発生するものです。業種にもよりますが固定費の中で一番大きいのが人件費であるというケースは多いです。従って人件費の見直しも早々に取り組める検討の一つです。
経営計画は中長期的な会社としての目指す計画の事であり、その中には売上計画や人員計画、投資計画なども含まれることが一般的です。当然ながら作成時点から状況も環境もどんどん変わっていきますから、資金繰りが苦しくなったタイミングなどでは見直しも視野に入れる必要があるでしょう。特に大きな支出を伴う計画であれば、それは本当にいまするべきものなのか?を再度検討し、軌道修正を図ることも必要です。
商取引で使用される手形を商業手形といいますが、商取引を介さないものを融通手形といいます。商業手形は売上入金を前提として振り出す手形ですので返すあてがありますが、融通手形は事実上の借入金になります。したがって満期日には償還しなければいけません。万が一手形の期日に返済資金が用意できず手形のジャンプもできない場合、決済ができず不渡を起こします。不渡は2回起こすと銀行取引停止となり、社会的信用は大きく失墜するでしょう。
租税債権は最も強いと言われており、問答無用で差し押さえを受ける可能性があります。破産手続きなどにおいてもさまざまな債権に優先して回収されるもので、「税金からは逃げられない」とも言われています。そのため税金の滞納を続けてしまった場合、事業用資産などの差し押さえを受けてしまう可能性もあるでしょう。そうなると事業継続は不可能になってしまいますので、計画的に支払う必要があります。
資金繰りが苦しい時の資金調達方法としてはさまざまなものがあります。例えば売上債権を買い取ってくれるファクタリングは、手数料を支払うことで実際の支払期日までの間に売上債権を資金化してくれるサービスです。
他にも業績改善の見込みがある場合などは、ビジネスローン・公的融資・銀行融資などの借入が起こせるかもしれません。一定の要件を満たす場合には公的な補助金や助成金も利用できるでしょう。
その他にも手形割引による売上債権の早期資金化や少人数私募債によるまとまった資金調達、投資家・VCからの投資や出資も考えられます。新株の発行により出資者を募るのも可能性としてはあるでしょう。
更に最近ではプロジェクトとしてのクラウドファンディングや、保険や投資などといった資産や固定資産の売却に加え、自社の一部事業の売却・譲渡(いわゆるM&A)も考えられるでしょう。
自社として現在どれくらいの資金が不足していて、その資金を調達することでどれくらいの改善が見込まれるのかをしっかりと検討し、そのために何を削るのか、何に取り組むのかなどを明確にしながら、その目的に合わせた資金調達方法を検討するようにしましょう。
長期的な資金計画を検討することで、「いつどのタイミングで資金繰りが詰まるのか」や「ある時点でどれくらい資金に余裕があるのか」などの見通しを立てることが可能です。危機的場面において時間がない中資金調達をすることは難しいですが、中長期的な見通しを踏まえてしっかりと資金調達の動きをするというのが健全な行動・活動でしょう。短期資金がいるのか長期資金がいるのかとしっかり計画を練り、金融機関交渉など早めの対応が理想的です。また、事業規模や企業規模が現状の収支に合わないと判断できる場合、規模縮小も中長期的に検討する必要があるでしょう。
設備投資は一度にキャッシュアウトするものの、損益としては減価償却費で繰り延べ計上するのが一般的です。そのため損益としては「儲かっている」ものの実際にはお金が多く出て行っているという状況も少なくありません。その設備が多くのキャッシュフローを生み出す見込みがあるようなケースであれば問題ないと思いますが、投資採算性が見込まれない場合には実行を見送るという判断も必要になってくるでしょう。
広告宣伝費は設備投資と似ている性質を持っており、「売上獲得のための投資」です。いくらの広告宣伝投資によっていくらの売上に繋がったのかという投資採算性を検討することでその広告宣伝費の意義が確認できますが、この費用対効果がよくないと判断される場合には倹約モードに切り替えた方がよいでしょう。広告宣伝費の使いすぎも「あるある」ですので、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。
普段さまざまな業務をしている中で、決算書や試算表に目を通している経営者はどのくらいいらっしゃるでしょうか。こういった財務資料は企業の経営状況を表すものなので、しっかりと内容を把握しておく必要があります。また、場合によっては貸借対照表上に計上されている資産で、「そういえばこんなものがあった」と換価可能なものが出て来るかもしれません。特に儲かっている時に節税として保険積立を行っているケースもよくありますので、振り返りという意味でも取り組んでみることをおすすめします。
ABNアドバイザーズは、あおぞら銀行100%子会社として設立された銀行系M&Aアドバイザリーです。
銀行として培ってきたファイナンスリテラシーをはじめ、M&Aアドバイザリーとしての豊富な実績をもとに、さまざまな事業活動のリスクと可能性を勘案したM&Aサポートを提供。
クライアントと共に丁寧にプロジェクトを進めていく姿勢・スキルはもちろん、資本政策を含めた提案力も、ABNアドバイザーズの強みとなっています。
引用元:ABNアドバイザーズ公式サイト https://www.abn-advisors.co.jp/lp.html
問題解決をするためには、「現状把握」「要因分析」「要因の除去」というプロセスが必要になります。資金繰り管理についても同様で、苦しい状況があるならまずは「どう苦しいのか」を把握し、「なぜ苦しいのか」を分析しましょう。そしてその要因が除去可能なのかどうか、外科的手術のような処置が必要なのかを検討しなければいけません。ただ悩んでいるだけでは時間が過ぎていくだけですので、しっかりとやるべきことに取り組む必要があります。
経営状態もしっかりと見直したうえで、「今なにをすべきか」「何をしてはいけないのか」を理解しながら資金繰り対策に取り組むようにしましょう。「キャッシュは血」とも表現されることがありますが、円滑な企業経営のためには「血を滞りなく流す努力」が必要です。