自社の株式売却先のひとつに挙げられる投資ファンド。ここでは、投資ファンドにM&Aで企業を買収するメリットについて、くわしくまとめてみました。投資ファンドを活用したM&Aで成果をあげるためにも、情報に目を通しておきましょう。
M&Aにおけるファンドとは、他の会社を買収したり、合併するために使われるお金を集めるための仕組みです。多くの人や組織からお金を集め、その資金を使って、目的の会社を買ったり、事業を統合したりします。
この過程で、会社の価値を高めたり、経営効率を改善したりすることを目指します。買収や合併を成功させることで、投資したお金を増やし、その利益を出資者に分配するのが目的です。
このようなファンドは、特定の業界や分野に特化していることもあり、専門的な知識を持つ運用者が投資先を選定し、運用します。
外資系ファンドであるスティールパートナーズがブルドックソースに対してTOB(公開買付)を実施したり、同じく外資系のKKRにより日立国際電気が買収されたりと、ファンドが大企業を買収する事例を新聞やニュースでご覧になったことがあると思います。
実は、ファンドの投資対象となるのは大企業だけではありません。また敵対的な買収は極めて稀で、ファンドを活用して企業を成長させたり、EXITを実現する中小企業オーナー経営者が増えています。
一般的にファンドとは「基金」「資金」という意味を持つ言葉で、金融業界では「運用を目的として集めた資金」を指します。M&Aにおけるファンドは「投資ファンド」を示すことが多く、主に未公開企業株式へ投資するファンドのことを「プライベートエクイティファンド(PEファンド)」と呼びます。
PEファンドは主に機関投資家などから資金調達を行って企業を買収し、企業価値を向上させたのちに株式を譲渡(EXIT)、その譲渡益を以て投資家へ還元することを目的としています。EXITの際はM&Aによる株式譲渡のみならず、IPO(新規株式公開)を実現するケースもあります。
M&Aにおける投資ファンドは、先述したPEファンド以外にも複数の種類があります。
ベンチャーキャピタルは、新興企業やスタートアップに対して初期段階で資金を提供する投資ファンドです。高い成長潜在力を持つ企業を見つけ出し、資金だけでなく、経営指導やネットワークの提供を通じて、企業の成長を支援します。リスクは高いですが、成功した場合のリターンも大きいです。
プライベートエクイティは、成熟した企業に投資し、経営の効率化や再構築を通じて価値を高めることを目的とするファンドです。バイアウトファンドは、企業の株式の過半数を取得し、経営権を握ることが多いです。改革後には、企業を再公開または他社へ売却し、利益を得ます。
グロースキャピタルは、成長段階にある企業に資金を提供するファンドです。ベンチャーキャピタルによる初期段階の支援を受けた後、さらなる成長のための資金が必要な企業が対象です。市場拡大や新製品開発など、成長を加速させるための投資に使用されます。
メザニンファンドは、債権と株式の中間的な特徴を持つ資金を企業に提供します。高いリスクを伴いますが、それに見合う高いリターンを目指します。買収資金の構成要素として使われることが多く、企業の成長や買収に際して、資本構成の柔軟性を提供します。
不動産投資ファンドは、オフィスビル、ショッピングセンター、住宅などの不動産に投資し、その賃貸収入や売却益から得られる利益を投資家に分配します。不動産市場への投資を通じて、中長期的な安定収益を目指します。
インフラファンドは、交通網、エネルギー供給設備、水道などの公共インフラに投資するファンドです。長期的な安定した収益を提供し、社会的な基盤整備に貢献します。公共性が高く、安定した運用を求める投資家に適しています。
一見すると、買収を行うPEファンドのみにメリットがありそうな方法ですが、PEファンドとの取引は譲渡側の企業にも多くのメリットがあるのです。以下に、そのメリットをまとめてみました。
PEファンドにM&Aで株式を譲渡するメリットのひとつとして、「資金調達が可能になる」という点が挙げられます。資金繰りが悪い企業では金融機関からの信用度が低く、企業成長・事業の拡大に必要な融資を受けられないケースが少なからずあります。
しかし、PEファンドからの直接的な投資を受ければ、不安定だった財務基盤を安定化させることが可能。十分な資金・信用を得ることで新たな設備投資や販路拡大、延いては事業成長を目指せるようになるだけでなく、企業を存続できる可能性も高まります。
また、PEファンドへの株式譲渡では適正価格での取引が可能になることもメリットです。PEファンドの最終的な目的はEXITを通じた投資家への利益還元であるため、将来性があると感じた企業に対しては、投資のプロとして事業価値を正確に把握した上で判断(=受託者責任)を行う必要があります。
主に戦略的な目線を持つ事業会社と比較すると、PEファンドは投資時に適正な価格で評価することが求められます。
PEファンドから投資を受けるメリットには、経営管理ノウハウの獲得も挙げられます。事業がうまくいかない企業では、経営管理ノウハウの不足による事業の停滞、事業拡大スピードの遅延などがしばしば見られます。
しかし、PEファンドから投資を受け入れれば、PEファンド自体が経営陣としてハンズオンにて参画し経営に積極的に関与するようになります。PEファンド傘下の他案件での経験・実績を積み上げた金融・経営のプロフェッショナルと共に二人三脚で経営を行っていくことで、企業側にも経営管理ノウハウが蓄積していくというワケです。
PEファンドは、投資後の企業が成長し、価値を増すことを目指します。そのため、新たな市場への進出や製品開発、技術革新など、企業の成長戦略を積極的に支援します。これにより、企業は自己資本だけでは難しいスピードでの成長や拡大を実現できる可能性があります。
PEファンドが資金を投入するのは、将来的な成長及びキャッシュフロー創出が確実に見込まれる企業です。つまり、PEファンドが資金を出して投資実行を行うということは、その企業には「それだけの価値がある」ということ。PEファンドによる資金提供を受けたという実績は企業の信用力向上だけでなく、知名度アップにもつながるでしょう。もちろん、社会的な信用が高まるとともに、銀行をはじめとする金融機関からの融資も受けやすくなると考えられます。
多くのPEファンドは、特定の業界に深い知識を持ち、広範なネットワークを有しています。これらのリソースを活用することで、企業は新たなビジネスチャンスを掴んだり、業界内での位置づけを向上させることができます。また、他の投資先企業とのシナジー効果を生み出す機会もあります。
PEファンドは、買収した企業の経営効率化やコスト削減を図ります。これには、不採算部門の整理、経営資源の最適化、運営プロセスの改善などが含まれます。この結果、企業の収益性と競争力が向上することが期待されます。
PEファンドは、投資先の企業ガバナンス(企業統治)の強化にも貢献します。適切な経営監督体制や透明性の高い経営を導入することで、企業の持続可能な成長をサポートします。これは、長期的に企業価値を高める上で重要な要素です。
PEファンドは、投資先企業を一定期間保有した後、売却や上場などによって投資を回収します。このエグジット(出口戦略)により、企業は次の成長段階へ移行するための機会を得ることができます。また、創業者や既存株主にとっても、資産の流動化や利益確定の機会を提供します。
一般的なM&Aでは第三者に経営権が移るため、経営陣は役員のポジションから追われる可能性が高くなります。しかし、PEファンドによるM&Aの場合、代表権を残すのは難しいとしても、経営陣のポストに残れる可能性は高くなります。
なぜなら、その企業が身を置く業界に誰よりも詳しいのは、PEファンドに買収された企業の経営陣だからです。PEファンドの目的は経営改善によって企業価値を向上させることですから、そのために経営陣の知識・知見・ノウハウは欠かせません。
PEファンドによる経営改善ノウハウ・資金と、現経営陣の業界への深い知見、洞察力、自身の会社の事業・社員に対する深い理解、愛情が組み合わさって初めて企業価値向上が実現することになります。
投資ファンドにM&Aされるデメリットも見ていきましょう。
PEファンドは、投資先企業の価値を最大化するために積極的に経営に関与します。この結果、創業者や既存の経営陣は経営上の意思決定において自由度が低下する可能性があります。特に、戦略的な意思決定や重要なビジネス方針の転換について、PEファンドの意向が強く反映されることがあります。
PEファンドは、投資の回収期間を設定しており、その期間内に企業価値を高めて利益を得ることを目指します。このため、短期的な業績改善やコスト削減に重点が置かれ、長期的な成長戦略や研究開発投資が犠牲になる可能性があります。
PEファンドによる買収は、レバレッジ(借入れ)を大きく活用することがあります。これは、買収後の企業に高額の負債を負わせ、その返済負担が企業の財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、ビジネス環境が悪化した場合、負債返済が困難になるリスクがあります。
PEファンドが持つ成果主義や効率化の文化が、投資先企業の既存の企業文化と衝突する場合があります。経営方針の変更やリストラクチャリングにより、従業員のモチベーションが低下したり、組織内での不和が生じることも考えられます。
PEファンドは投資回収のために、数年内に企業を売却するエグジット戦略を持っています。この売却プロセスや時期が、必ずしも企業や創業者の最善の利益に合致するとは限りません。市場環境や企業の状況によっては、望ましくない条件での売却を迫られる可能性もあります。
投資ファンドを活用し、事業譲渡をしたティ・シー・ケイ株式会社。
前社長の後藤満則様は60歳を越えたころに事業承継を考え始めたとのこと。
縁あってABNアドバイザーズに依頼したところ、早くも二回目の面談で要望を実現するための方法を確実に提案。M&Aの事情に通じていることがよく伝わり、弁護士や元金融マンなど信頼できるスタッフでチームアップしてくれたことが非常に大きい安心感につながったようです。
どのような思いで事業承継に踏み切ったのか、また投資ファンドに売却してどんな印象をいただいたか等、詳しく紹介していますのでぜひご覧ください。
投資ファンドを活用したM&A事例
【ABNアドバイザーズ公式HP】
企業を投資ファンドに売却したい場合、M&Aの仲介会社を頼ることがおすすめです。
その理由は複数あります。まず、仲介会社は市場や業界の専門知識を持っており、適切な買い手を見つけることができます。仲介会社は買い手と売り手双方のニーズを理解し、最適なマッチングを提案できる能力を持っています。経験の豊富な仲介会社であれば、売却条件の最適化、価格交渉、契約条件の詳細調整など、スムーズに取引を進行するための支援を受けられます。
また、M&Aプロセスは複雑で時間がかかるものですが、仲介会社は手続きの効率化を図り、負担を軽減してくれます。企業の秘密保持や情報の管理も適切に行うことで、取引の安全性と秘密性を保ちます。
適切な仲介会社を選ぶことで、売却プロセスにおけるリスクを最小限に抑え、企業価値を最大化することが可能になるのです。
当メディアの取材協力会社である「ABNアドバイザーズ」は、あおぞら銀行の100%子会社として設立された銀行系のM&Aアドバイザリー会社です。
ここでは、銀行系であることのメリットについて説明します。
銀行系のM&A仲介会社は、母体となる銀行の強力な資金調達力を背景に持っています。このため、M&A取引における資金調達の面で大きなアドバンテージを提供できます。買収資金の調達や、資金調達に関するアドバイスなど、取引の成功に必要なサポートを幅広く提供できる点は大きな強みです。
銀行系の仲介会社は、銀行が持つ幅広い産業セクターや企業とのネットワークを活用できます。これにより、潜在的な買い手や売り手を効率的に見つけ出し、適切なマッチングを行うことが可能です。また、国内外の取引においても、銀行のグローバルネットワークを利用してサポートを提供できる点は、特に大きなメリットと言えるでしょう。
銀行系の仲介会社は、M&A取引だけでなく、それに伴う様々な金融サービスをワンストップで提供する能力があります。これには、資金調達、資産管理、リスク管理、税務アドバイスなどが含まれます。特に、取引後の経営統合や財務再編に関する支援も充実しているため、M&Aを通じた企業価値の最大化を目指すことができます。
銀行系という背景は、高い信頼性と安定性を意味します。銀行の厳格なリスク管理基準や倫理規定に基づいた運営が行われるため、取引の安全性が保証されます。また、長年にわたる金融業界での実績が、取引に対する信頼の証ともなります。
PEファンドに「売却益だけを目的としている」というイメージを持つ方も少なくありませんが、企業の経営改善・成長を目指すという意味では、経営者と目指すところは同じ。うまくPEファンドへの株式譲渡を成功させられれば、さらなる事業拡大も夢ではないでしょう。
しかし、正しいファンド選びを行わないと企業の存続が危ぶまれるだけでなく、従業員や取引先にも影響を及ぼすことになりかねません。ファンドへの売却を考えるなら、専門的な知識は不可欠であると言えるのではないでしょうか。
ABNアドバイザーズ株式会社/澤田氏
事業成長・IPOにはファンドの活用を
ファンドが買収資金を調達するときにあおぞら銀行を活用したり、あおぞら銀行自体がファンドを持っていたりと、あおぞら銀行はファンドとのつながりが深いという特徴があります。
ABNアドバイザーズでもファンド出身のメンバーがおり、各社の経営状況を見ていくらくらい投資すべきかといった具体的な提案を得意としております。
事業を拡大して会社を大きくしたい、IPOをしたいと考えている経営者の方はぜひご相談ください。