M&Aの中でも、とくに中小企業でよく使われる株式譲渡。この株式譲渡という手法を選択した場合、譲渡(売り手)企業側にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。分かりやすく解説してみました。
株式譲渡は、国内の中小企業におけるM&Aで多用されている手法。企業の経営者が保有する株式を譲受(買い手)企業に譲渡し、企業の所有権および経営権を移転させるという方法になります。譲受・譲渡の双方で株式譲渡契約を結び、譲渡対象企業の株主が対象企業の株式を譲受企業に譲渡。それに対し、譲受企業が株式取得の代金を支払うという仕組みです。
株式譲渡では、譲渡企業は株式を取得した譲受企業の子会社となります。法人自体は存続し、事業についてはそのまま継続できるため、従業員の雇用や取引先との関係も維持することが可能。企業を継ぐ後継者がいない場合でも、外部への売却により廃業をまぬがれることができるでしょう。
株式譲渡は譲渡企業の株主が保有する株式が譲受企業側へ移動するだけなので、自社の従業員の雇用契約を締結し直したり、取引先・顧客との取引契約を再締結したりする必要がありません。M&Aにはさまざまな手法がありますが、「株主総会の承認が不要」「従業員や取引先と再契約する必要がない」など、とくに手続きが少ないのが特徴。交渉がスムーズに進めば、短期間で株式を現金化することができます。
株式譲渡における譲渡対価は、株主である経営者個人が受け取ることになります。また、株式譲渡益に対する課税率は一律で20.315%となっており、高額の役員報酬・役員退職慰労金に対する所得税・住民税や事業譲渡益にかかる法人税に比して低い税率となっています。
株式譲渡によって得た資金で、譲渡オーナーはセカンドライフを楽しんだり、新たなビジネスに再投資することが可能です。
株式譲渡では、企業の資産のみならず負債についても譲受企業側に譲渡されます。そのため、抱えている負債が大きい、不採算事業があるといった場合は企業価値がダウンし、譲受企業が見つからない恐れがあります。
ABNアドバイザーズ株式会社/澤田氏
メリットに当てはまる企業が多い株式譲渡
比較的手間が少なく、スピーディーに現金化できる可能性が高い株式譲渡。手離れもよく、中小企業ではもっとも多く採用されている手法ではありますが、M&Aには他にも合併・事業譲渡・株式交換といったさまざまな手法があります。
もちろん株式譲渡はメリットの多い方法ですが、企業にとってより良い方法が他にもあるかもしれません。また、手続きが簡単であっても十分な準備なしに行うと、想定外のトラブルに見舞われる恐れもあります。検討する際には、専門家の力も借りつつ慎重に計画を練るようにしてください。